ドールズ―Dolls 4

written by Richiya Naitoh 2001


女性の方が先に声をあげた。その女性は、彼の妻だった。
彼は必死で言葉を捜した。
「……ジャネット……どう説明して良いのか……。そうだ、モニークは?」
娘の名前を耳にして、妻は顔色を変えた。
「やっぱり、親子なのね……知らせようかどうしようか、
ずっと迷っていたのに……こっちよ」
妻は彼を家に招き入れ、歩きだした。彼は居心地の悪さを感じつつも、
妻の後について階段を上った。
妻は、娘の部屋のドアを開けた。ベッドの上に、娘は、いた。
「モニーク!!」
思わず、彼は娘に駆け寄った。娘はベッドの中で額に氷嚢を乗せ、
苦しそうな息をついて眠っている。
「もう、三日も熱が下がらないの……勿論、医者には見せたわ。
原因が判らないの。このまま熱が下がらなければ、
入院させた方が良いって言われたわ」
妻は寝ずに看病していたのだろう。憔悴し切っている。
「……ドリー!」
娘のベッドの中で、娘に寄り添うように横たわっている人形を見て、
彼は驚きの声を上げた。ふわりとした小花柄のドレスの上に、
白いレースのフリルのエプロン、リボンで纏められた
つややかな栗色の髪―まさに、それは彼の元を訪れた少女そのものだった。
「どうしてその名前を? その人形は、あなたがこの子の誕生日に
贈ってくれたのよ」
妻の言葉に、彼は頭をハンマーで一撃されたような衝撃を覚えた。
そうだ、彼は娘の誕生日に、この人形を贈ったのだ。
「私は仕事で忙しくて、一緒にお祝いもしてあげられなかったから、
余計に嬉しかったんでしょうね。モニークはドリーと名付けて大事にしていたの。
パパやママがいなくても、ドリーがいるから寂しくないって、
いつも言っていたわ……」
「そうか……そうだったのか……」
彼は、全てを理解した。ドリーの可哀相な友達とは、娘の事だったのだ。
自分はプライドの為だけに意地を張って、妻や娘を省みず実入りの少ない
探偵家業に没頭していた。そして、妻は妻で自立した女性を目指して、
夫のいない分も仕事に明け暮れている。誰も娘の気持ちなど
思いやっていなかった。娘は娘なりに孤独に耐えていたが、
心の何処かで愛情に飢えていたのだ。
「……モニーク……ごめんよ……寂しい思いをさせてしまったけど、
パパもママも、お前を愛していない訳じゃない……ちょっと
気が付かなかっただけなんだ……お前を愛しているよ、誰よりも……」
 彼は、目に涙を浮かべ、そっと娘の髪を撫でた。
熱に浮かされた熱い額に、そっとキスをする。
「……パパ……?」
うっすらと、娘が目を開いた。目の前に父親の姿を認めると、
がばっと起き上がり、首に両腕を回してしがみ付いた。
「パパ……パパ! 来てくれたのね!」
「まあ、モニーク、あなた……熱は?」
妻が驚いて二人に駆け寄った。娘は嬉しそうに母親を見上げる。先程までの熱が
嘘のように元気になっていた。
「ママ! ママもずっと側にいてくれたのね?
パパとママ、一緒に暮らしてくれるんでしょう?!
神様がモニークのお願い、聞いてくれたのね!」
「……」
妻は言葉を失っていた。彼は、何も言わずに娘を抱き締めていた。

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