森の精霊樹 4

written by Richiya Naitoh 2005


 シロップがジャムをちらっと見たので、ジャムがその後を引き継ぎました。
「森のエルフは、生まれ育った森でずっと暮らす習慣だけど、あたしは遺跡の発掘の仕事をしているうちに、もっと沢山の遺跡や森を見たくなって、旅に出る事にしたの。そしたら、エルフ族の長老に、シロップも連れて行って、彼の家族を探すようにと言われてね」
 エルフの長老には、未来を予見する不思議な能力があり、シロップは何かとても大切な秘密を持っていると言うのです。
「どうして彼が森に捨てられていたのか、その秘密を知る為にも、家族を探す必要があると言われたの。それで、一緒に旅をしているの」
 シュガーは目を輝かせてシロップを見詰めました。
「もしかしたら、シロップはどこかの国の王子様かもしれないのね、素敵!」
「精霊樹に会えば、シロップが王子様かどうか判るわよ」
 ジャムは呆れて言いました。シロップは首を振りました。
「そんな事どうでも良いんだ。僕はただ、自分のお母さんに会いたいんだ」
「お母さん、見つかると良いわね」
 シュガーの言葉に、シロップは力強く頷きました。

「わたしはお父さんのベッドで寝るから、お二人でわたしのベッドで休んで下さいね。狭くてごめんなさい」
 新しいシーツをベッドに整えながら、シュガーはジャムとシロップに言いました。
「気にしないで。ベッドで眠るの久しぶりなの。嬉しいわ」
「僕達こそ、君のベッド取っちゃってごめんね」
 旅の途中では野宿もざらだったので、シロップ達は暖かい毛布に包まって、ぐっすりと眠る事が出来ました。
 その夜、シロップは不思議な夢を見ました。真っ暗な森の奥に迷い込んだシロップは、出口を探してひたすらに歩き回っています。いつも一緒に居るはずのジャムの姿は何処にも見当たりません。
――おーーい、ジャムーーー!
 シロップの声は、何層にも重なり合った木々の間に吸い込まれ、こだまする事もなく消えて行きます。
――シロップ、こっちよ……
 かすかに、ジャムの囁くような声が聞えました。その声の聞こえる方向へ進もうとすると、びっしりと茂った木々が、ざぁっと蠢いて道を作ります。木の枝のトンネルをくぐって進むと、急に目の前が明るくなり、ぼうっと青白く光る壁が立ちはだかっていました。よく見るとそれは古い古い遺跡の石壁で、光っているのはその遺跡を覆った苔でした。そしてそれを土台にして天にまで届くほど大きな樹が立っていました。
――精霊樹……!
 シロップには何故だかすぐに、それが精霊樹だと判りました。精霊樹は石壁を伝うように根を下ろし、遺跡と一体になっているように見えました。
――シロップ、こっちよ……
 遺跡の中からジャムの声がしました。シロップは石壁を見回して入り口を探しました。ようやく見つけた入り口からは、真っ暗で中が見えません。
――ジャム、どこなの?
 シロップが遺跡の中に一歩足を踏み入れようとした時、
――きゃあぁぁぁーーっ!
 ガラガラと石が崩れる音がして、ジャムの悲鳴が聞こえました。
――ジャム、ジャムーーー!
 シロップは、がばっと起き上がりました。
「なんだ、夢かぁ……」
 ほっと汗を拭って隣を見ると、一緒に寝ていたジャムの姿がありません。シュガーとお父さんはまだ眠っていました。シロップは二人を起こさないように、そっとベッドを抜け出すと、裏庭に出ました。空にはまだ星が見えていましたが、東の空が段々と白んできています。ジャムは、裏庭の木の苗一本一本に無事に育つようにと呪文を唱えていました。
「ジャム……僕、精霊樹の夢を見たよ」
 シロップは今見たばかりの夢の内容をジャムに話しました。でも、最後にジャムの悲鳴が聞こえた事だけは言いませんでした。
「あんまり精霊樹の事ばかり考えていたからかな?」
 シロップはまたいつものようにジャムに莫迦にされるかなと、思って苦笑しました。が、
「でも、あんたの知らない遺跡だったんでしょう? 見た事もない物をどうして夢に見るのよ? もしかして、精霊樹が夢を通じてシロップを呼んだのかもしれないわ……」
 ジャムはそう言ったきり、考え込みました。今までも仕事で色々な遺跡の調査をしましたが、精霊樹と関係のありそうな遺跡は見た事も聞いた事もありませんでした。
「この森の奥に、太古の遺跡と精霊樹が眠っているかもしれないのね」
 ジャムは目の前に広がる森をじっと見詰めました。

「おとぎ堂」No.12(2005年9月発行)掲載分

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