森の精霊樹 3

written by Richiya Naitoh 2005


「精霊樹の知識を得たものは世界を支配する事が出来る――そんな伝説が信じられているの?」
 シロップは目を丸くしてシュガーのお父さんを見詰めました。お父さんは頷きました。
「どうやら、村にやって来た荒くれ者達は、精霊樹を探しているようなのだよ。だが、精霊樹の存在を知っているのは、村でもごく僅かな木こりや年寄りばかりで……私や仲間達も連中に酷い目に遭わされてなぁ……」
 お父さんは辛そうに顔をしかめました。お父さんの病気はそのせいだったのです。
「あんな連中が精霊樹の知識を手にしたら、とんでもない事になってしまうよ! 僕達の手で、精霊樹を守るんだ!」
 シロップは息巻いて立ち上がりましたが、他のみんなはぽかんとしています。
「どうしたの、みんな?」
「あんたって本当に単細胞ね。精霊樹は不思議な力を持っていて、正しい心を持った者にしか姿を見せないとも言われているわ。だから、悪い心を持った人間に見つかる心配なんてないのよ。第一、その精霊樹がこの森に、本当にあるのかどうかすら判ってないのよ?」
 ジャムは呆れ顔で溜息をつきました。それでも、シロップは諦めません。
「でも、悪い奴らは精霊樹が見つかるまで、村に居座ってしまうよ。このままでは、シュガーや村の人達が困るじゃないか! それに、僕は精霊樹が何でも知っているのなら、聞きたいことがあるんだ」
「……お母さんの事、ね?」
「うん!」
 シロップは目を輝かせています。ジャムはもう一度溜息をつきました。

 夕食の支度を手伝おうと、井戸の水を汲みに裏庭に出たジャムは、驚きました。裏庭一面に、芽吹いたばかりの小さな木々が植えられていたのです。
「私達は、森を切り開いて村を作ったが、森を滅ぼそうとは思っていないんだよ。――時間はかかるかもしれないが、こうやって少しずつでも森へ木を返そうと思っているんだ。私が死んでも、シュガーやその子供達にこの仕事を引き継いでもらいたいと、思っているんだよ」
 シュガーのお父さんが、呆然と立ち尽くすジャムの隣にやって来て言いました。ジャムは、お父さんに気付かれないように素早く涙を拭うと、微笑みかけました。
「あたし、人間を誤解していたわ。あなたみたいな人がいてくれて嬉しい。エルフは人間よりずっと長生きだから、きっとこの木が立派な森になるのを見届けるわ。楽しみにしてるわね」
 お父さんが思わずドキリとするような、美しい微笑みでした。エルフは人間よりも美しい外見をしているものですが、いつもジャムは人間にはイライラして、冷たい表情しか見せないので、シロップがこの微笑みを見たら、ビックリした事でしょう。
「エ…エルフは寿命が長いと聞くが、あんたはどれくらい生きているのかね?」
 心なしかお父さんの顔が赤らんでいます。
「森のエルフは木と同じくらい長生きよ。あたしは、あなたのお祖母さんくらいかもね」
「……ば…祖母さんくらい、か……」
 お父さんはしょんぼりと家に戻って行きました。ジャムはその後姿に、くすっと悪戯っぽく笑いました。

 その日の晩ご飯は、とても豪華なものになりました。ジャムが森のエルフの知識を生かして、おいしい木の実やきのこを見つける方法を教えたので、シロップやシュガーは裏の森で山の幸をどっさり採ってきました。お父さんも川で魚を獲ってきてくれました。食べきれない分は保存食にしたので、シュガー親子はとても助かりました。
「シロップ、精霊樹に訊きたいお母さんの事って、何?」
 食事の途中で、シュガーが尋ねました。シロップとジャムは食事の手を止めました。
「僕は赤ん坊の頃、森に捨てられていたんだって」
「……まぁ。ごめんなさい、辛い事を訊いてしまって」
 シュガーは悲しそうに目を伏せました。
「ううん、気にしないで。それで、僕は森のエルフ族に育てられたんだけど……」

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